■■■「VS狂犬」■■■
(50点/サスペンス)
自分の起こした交通事故で妹を亡くし、自らも半身麻痺となり右手しか動かせなくなった少女のエレナは、事故を起こした自分を責めながら生活を続けていた。
年老いた父と介助犬のアトスと共に郊外の一軒家で暮らす事となった彼女だったが、そんな矢先に父が心臓の病で庭先で倒れるのを目撃。
彼女は、片腕と電動車椅子しか動かせない身体でなんとかして助けを呼ぼうとするが、時を同じくして介助犬のアトスが狂犬病らしきウイルスに感染し、異常なまでに狂暴化している事が判明し…
狂犬病(?)に感染し狂暴化した介助犬によって郊外の一軒家に閉じ込められた半身麻痺の少女が、なんとかして狂犬の襲撃から逃れつつ助けを呼ぼうとする…という、スペイン製のサスペンススリラー映画。
いわゆるワンシチュエーション系のサスペンスホラー作品で、どことなくS・キングの「クジョー」を思い起こすようなプロットですが、こちらは真夏の車内という条件ではないものの、主人公が『半身麻痺で右腕以外は全く動かせない状況』という事もあり、シチュエーションは似ているもののかなりベクトルの違う印象を受ける作品となっています。
製作国が欧州の作品という事もあって、全体的に雰囲気映画的なテイストが強めの内容という感じ。
タイトルに「VS狂犬」なんで付いているので。狂犬病(実際には別の病気っぽい?)で狂暴化した介助犬との戦いを描いた、手に汗握るような動物パニックを題材とした作品かと思いきや、どちらかというと心理ドラマとか人間ドラマ的なノリが強めの作品です。
主人公が『自分の起こした事故』で姉妹を死なせてしまった事に強い罪の意識を感じており、それに加えて過去に亡くなった母親を絡めた姉妹間の確執やら、心臓の病気を抱えた父親との関係性やらが丁寧に描かれており、人間ドラマや家族ドラマとしては非常に丁寧にキャラクターが掘り下げられています。
本編中でも、たびたび主人公の夢や妄想のなかで『死んだ妹』が登場して過去の出来事について語ったりと、主人公の内省的なドラマやらの部分がかなり強めで、作品テーマとしても自ら犯した罪への『赦し』のような部分がメインとなっている印象。
ただ人間ドラマとしては深い内容なのですが、逆に生物パニック映画としてみると、どうにも退屈な内容というのが正直なところ。
パニック映画として観ると、そもそも主人公が『右腕しか動かせない』という状態なので、とにかく取れるアクションが少なくて、シチュエーション的にもサスペンス的にもどうにも盛り上がりません。
一応、『狂犬』は『大きな騒音が苦手』とか、主人公側にも対抗手段は準備されているのですが、そもそも主人公が『狂犬』が本気で襲ってきたら速攻で殺されてしまうようなフィジカルですので、派手な襲撃シーンやアクションシーンがある訳でもなく…
また、相手が『狂犬』なので心理的な駆け引きや会話劇が行えるような状態でも無いので、見どころが非常に薄いんですよね。
『主人公の身体が満足に動かない』事によるストレスや緊張感はありますが流石にそれだけでは弱すぎるので、『もうちょっとエンターテインメント寄りの要素があっても良かったんじゃないかなぁ…』というのが正直な感想でしたよ。(まあ、欧州映画にそういうノリを求めること自体が間違ってると言えば、そのとおりなんですが…)
総評としましては、どうにも『地味な印象の生物パニック映画』という感じの作品ですね。
そもそも『生物パニック』というよりは、『主人公の内省的な心理描写を描いた人間ドラマ』という方がジャンル的に正しいと思うので、そういうノリが好きであればまあまあ楽しめる一本ではないかと?
「VS狂犬」とかってタイトルから、アクション映画っぽいノリを期待してると肩透かしを食らわされてしまう恐れが強いので、その辺は要注意かもしれませんよ。