NIGHT_SHIFT (B級映画&ゲーム雑感 上井某BLOG)

上井某(家主)が観た「B級映画」(主にホラーとサスペンス)の感想と、たまにゲームとかアニメとかについてつらつらと語るブログです。

映画感想:「ディアスキン 鹿革の殺人鬼」(50点/サスペンス)

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■■■「ディアスキン 鹿革の殺人鬼」■■■
(50点/サスペンス)

 妻と離縁し全てを失った中年男性のジョルジュは、とある老人から憧れのイタリア製の鹿皮のジャケットを中古で譲り受ける。

 彼はそのジャケットを偏愛するあまり、ジャケットと会話するようになっていき、やがて『世界で唯一のジャケットになりたい』というジャケットの言葉を実行するために、映画の撮影だと嘘をつき人々からジャケットを奪い去る『ジャケット強盗』のような行為を繰り返すようになっていく。

 やがて彼の行動はさらにエスカレートし、自分が『この世で唯一のジャケットを着ている人間』となるために、自分以外のジャケットを着ている人間を全て惨殺しようとする、恐るべき連続殺人鬼へと変貌していくのだった…
 

 鹿皮の高級ジャケットを偏愛する中年男性が、ジャケットを偏愛するあまりに自分以外のジャケットを着た人間を全て殺害しようとする…という、フランス製のサイコスリラー映画。

 最初にタイトルを観た時は、エド・ゲインみたいに『人間の皮を使ってジャケットでも作ろうとする猟奇殺人鬼の話』かと思ったのですが、自分の買った『鹿皮のジャケット』を偏愛するあまりに、他の人間がジャケットを着る事が許せなくなり殺人を繰り替えす…という、ある意味でエド・ゲイン以上になんとも独特な世界観と設定のお話でした。

 ストーリーとしては、『妻と離縁し全てを失った中年男性が、精神を病み『高級な鹿皮ジャケット』以外に心のよりどころを亡くして、自分が『唯一の素晴らしいジャケットを着ている人間』になろうとして狂気に駆られていく』というような展開。

 80年代の映画のような妙に古臭い映像やら、サイコスリラーなのに妙にまったりとした雰囲気やらが漂っており、なんというか良い意味でも悪い意味でもフランス映画らしい『独特のセンスと空気感を持った作品』という印象です。

 ジャケットへ依存する事で自己を保とうとする主人公が、依存によって徐々に引き返せない段階へと踏み込んでいくという割とトンデモな感じの展開も、主人公のキャラクターをシッカリと描くことで違和感なく表現されているのは良い感じ。

 また、並々ならぬ『鹿皮へのごだわり』を持つ主人公が、鹿皮の帽子、鹿皮のパンツ等を手に入れて徐々にアップグレードしていく様子とかも、なんだかユーモラスで笑えます。

 ただフランス映画らしく、全体的に非常にのんびりした空気感でお話が展開していくため全体的に非常に冗長なのは困りもの。

 特に序盤~中盤辺りは、お話がなかなか進まないうえに主人公の行動が痛々しすぎて観ていてサスペンスとは別の意味で辛かった(ある種の共感性羞恥)ので、そういうのが苦手な人には厳しい映画かも?(笑)

 しかし、終盤の主人公の行動が過激化してきてからは非常にテンポも良く、また単なる『巻き込まれヒロイン』と思っていた酒場のお姉ちゃんが意外な立ち位置のキャラだったりと、色んな意味で予想外の展開に突入していくのは面白かったです。

 ラストの『アッサリしすぎなオチ』も逆に良い味を出していますし、色々な受け取り方が出来るラストシーンもいかにもフランス映画的で個人的には悪くありませんでしたよ。
 

 総評としましては、独特の個性と空気感を持った『雰囲気映画的なノリのサイコサスペンス映画』という感じの作品ですね。

 本文でも書いたとおり良くも悪くも『フランス映画らしい作品』なので、フランス映画の独特のノリやらテンポの遅さが苦手だと、ちょっと辛い部分のある作品かも?

 ただテンポの遅めの作品ながらも、本作は尺が短い(75分程度)こともあってそこまで冗長さが苦痛でもなかったですので、そういった『独特のノリと空気感』の作品が観てみたいのであれば入門用に割とオススメかもしれませんよ。