■■■「世界の終わり/ジョン・カーペンター」<マスターズ・オブ・ホラー>■■■
(60点/サイコホラー)
カルトなホラー映画のみを上映し経営難の映画館を経営するカービー・スウィートマンは、ある日、大富豪で稀少なホラーフィルムの蒐集家であるベリンジャーから、マニアの間でも幻の映画と言われている「世界の終わり」という映画のフィルムを探して欲しいと頼まれる。
その映画は過去に一度だけ「シトヘス映画祭」で上映された際に、映画を観た観客の間で暴力事件が発生し、それ以降は2度と上映される事なくフィルム自体も既にこの世には現存しないと言われる、忌まわしい曰くのついた作品だった。
劇場購入の際の借金の返済に迫られていたカービーは、多額の依頼料と本人の興味も手伝ってこのフィルムの足取りを追い、以前にその映画の監督にインタビューを行ったという映画論評家のマイヤーズに会って話を聞くが…
マイヤーズによると、その映画には観た人間を狂気と暴力へと走らせる、凶器にもなるような恐るべき『力』が秘められており、映画祭の際に『暴力沙汰』どころか4人もの死者が発生したのだと知らされる。
そして徐々にフィルムの存在に近づいて行くに従って、カービー自身も『フィルムの切り替え時の焼印』のようなフラッシュバックのような幻覚と奇妙な幻影に悩まされるようになっていくのだった…
世界的に有名なホラー監督が競演したオムニバス形式のショートホラームービーシリーズである「マスターズ・オブ・ホラー」シリーズがいよいよ日本でもリリース開始された訳ですが、一本目は大ファンであるジョン・カーペンター監督によるサイコホラー映画です。
カーペンター監督と言うと、ホラーファンの方なら改めて解説する必要も無いかもしれませんが、「ハロウィン」や「遊星からの物体X」を代表作とする個性的なホラーを撮る事でカルト的な人気を誇っている監督で…
私も非常に大ファンで、最も好きなホラー映画監督と言っても過言では無いのですが、ここ数年は新作を撮ってくれていなかったので、短編ながらもカーペンター監督の新作が観られるとあれば、それだけで嬉しい限り!!
映画の設定だけ聞くと、『呪いのビデオ』ならぬ『呪いの映画フィルム』を題材とした作品という事で、ちょっと『流行り物に乗った感があるのかな?』とも思いましたが、実際には2番煎じ的な要素は微塵も感じさせない、カーペンターらしいケレン味溢れる作品に仕上がっていたので一安心。
テイスト的には同監督の「マウス・オブ・マッドネス」に感覚が似てるかも?
本編の中で、『映画は魔法だ。凶器にもなりうる』というセリフが出てくるのですが、本作はこの言葉どおりに、映画そのものの持つ魔力とでも言う物を題材としており、呪いとかオカルトとかのテイストも持ちながらも、同時にサイコスリラー的な雰囲気を感じさせる作品で、この設定そのものがカーペンター監督の『ホラー映画への思い入れ』や『ホラーへ向かう姿勢』というのを良く感じさせてくれ、ファンならずともホラー映画好きにはニヤリとさせてくれます。
元々が短い映画を撮る事が多い監督だけあって、60分の枠の中での導入~謎解きパートの流れの上手さや盛り上げるシーンの塩梅も非常に見事で、尺の短さ全く感じさせない中身の充実ぶりは流石ですし、『呪いの映画フィルム』のこけ脅しに終わらない説得力のある恐さもなかなかの物。
ただ、唯一の不満があるとしたら、本編で少しだけ再生される『呪いの映画フィルム』の内容が、そこまでインパクトのある内容でもなくて少々迫力不足な点でしょうか?
ここは、もうちょっとコケ脅しでも良いのでドギツい映像の連発でも良かった気がします。
『救いが無いながらも、どことなくホッとさせる』という捻りの効いた終わり方も個人的には好みですし、単純に恐がらせるだけではない、何か『少し考えさせられる』雰囲気を持ったカーペンター哲学とでも言うようなテイストを持った作品作りは健在で、そろそろ長編の新作も撮って欲しいなぁ…と思うことしきりでしたよ。
総評としましては、恐さと言う点では、同シリーズ(「マスターズ・オブ・ホラー」)の中でも他の作品に譲る所でしょうが、『ホラーらしい面白さ』という点では非常に良く出来た作品だと思います。
非常にコンパクトにまとまった中に、恐さと同時にテーマ性やお話の面白さを感じさせるという、ホントにカーペンター監督らしい作品でした。
カーペンター監督の新作が待ちきれない人ならずとも、ホラーの巨匠が集う「マスターズ・オブ・ホラー」シリーズ13本のうちの一作としてホラー好きならばとりあえず見ておいて損は無いかな?