■■■「死霊のえじき」■■■
(60点/ゾンビ映画)
20XX年、引き続く死者の復活現象によって文明は完全に崩壊し、生き残った僅かな人々は軍の地下シェルターに潜み細々と生活を続け、地上は完全に死者によって支配された世界と化していた。
生き残った軍人たちと科学者のチームは、ゾンビに対する対抗手段を発見すべく研究を続けていたが、科学者達のリーダーであるローガン博士が、『ゾンビの行動原理を解明する為にゾンビの中でとりわけ知能の高い固体に「バブ」と名前を付け、そのゾンビを『飼いならす』実験を行っている』という事を知った軍人たちは博士のやり方に猛反発。
やがて意見の食い違いと軋轢から、彼ら間の溝はどんどん広がっていく事となる…
そんな訳で、相変わらず続くゾンビ映画ネタですが、今週はロメロ監督ものからもう一本。
昨日の「ゾンビ」の続編の『死者シリーズ』の第3段に当たる作品の閉鎖環境型のゾンビ映画。
しかしこのシリーズって邦題を付けた時に、よっぽど何も考えずに付けちゃったのか、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」~「ゾンビ」~「死霊のえじき」って、知らずに聞いたら、とてもじゃないけどシリーズとは思わないよね…
位置づけ的には「ゾンビ」のエピソードの数年後らしき世界が描かれてるんだけど、人間社会や文明は完全に崩壊し死者達のみが日中の街中を徘徊。
残された人間は地下に潜んでゾンビ達から逃れて生き残る道を模索するという、完全に死者に支配された閉塞感溢れる絶望的な世界を描いています。
軍のシェルターという閉鎖環境の中でわずかに生き残っていたコミュニティーも、長期の非難生活へのストレス、軍人と科学者との対立といったごくささいな軋轢が元で、脆くも崩れ去ってしまうという、『閉じられた世界の崩壊』を描いたお得意の、なんともロメロ監督らしい救いの無い内容。
ただ、「ナイト・オブ~」や「ゾンビ」が、リアルな現実世界に死者の復活といった『非現実』が侵食してくるという恐怖を描いていたのに対して、「死霊のえじき」は『虚構世界でのサバイバル映画』という感覚が強くて、前の2作とは少々違った印象を受けます。
良く言えば『よりアクションやエンターテイメント的な要素を増やして一般向けな映画になった』と言えますが、悪く言えば『キャラや世界観の描き込みが薄くなり、底の浅い映画になってしまった』とも…。
コレは、まあ一概にどっちが良いとも一言では言えないので、評価の難しい所でしょう…
本作の最大のポイントは、博士の研究していた知能の高いゾンビ『バブ』が、博士を殺した軍人に対して復讐するというシーンが描かれている事。
まあこれは、『世界を滅ぼすのは怪物ではなく、人間の利己主義や人間同士の醜い対立である』といった、シリーズ共通の裏テーマを含んだブラックな風刺な訳ですが…
同時に、『ゾンビは果たして知能を獲得し得るのか?』といった新たな設定の提起が行われており、どうやらこれが次回作の「ランド・オブ・ザ・デッド」へと引き継がれた設定となっているっぽいので、「ランド・オブ・~」を観に行く予定の人は本作も予習しておいた方が良いかもしれません。
特撮に関しては、製作されたのも「ゾンビ」の7年後という事もあって、特殊メイクも非常に進歩しており、残虐表現も『内臓引きずり出し』やら『胴体八つ裂き』やらと、かなりのレベル。
ここまで行くと、立派にゴア映画と呼んでも差し支えの無いレベルですな。
20年ぶりに改めて本作を観て気付いたのですが、1~2作目ではゾンビ化の原因は『原因不明』とか『謎の宇宙線の影響』とかされていたのが、3作目では『噛まれた人間がゾンビになる』といった明らかな感染症状が描かれていますね。
「ナイト・オブ・~」の頃は核とか放射線とかが人間の恐怖の対象だったのに対して、「死霊のえじき」の頃になると、新たに生物兵器とかの恐怖が現実的な物となってきた為に、ロメロ監督も時流に乗ったのか…
なんとなく、時代の流れを感じさせる設定です。
総評としましては、「ゾンビ」と比べると『閉じられたシェルター内』といった非常に狭い閉塞的環境で物語が展開される事もあって、どうにも小ぢんまりとしてしまい『普通のホラーになってしまったなぁ』と言った感覚は拭えない作品です。
まあ、しかし流石に巨匠と呼ばれるロメロ監督だけの事はあって、閉鎖環境ホラーとしてのツボは非常に良く押さえられており、こういったB級ホラーテイストの映画が好きならば、今観ても十二分に楽しめるレベルの作品ではありますので、ホラー好きならば観ておいて損は無いでしょう。
特に次回作を見ようと思ってるけど、今までの作品は未見という人は必見です。
ちなみに本作には、残虐描写が大幅カットされてる「死霊のえじき 最終版」と、胴体八つ裂きシーンとかそのままの「死霊のえじき 完全版」がありますので、見る際はお間違えの無いようにご注意下さい。
どっちが正解なのかは、敢えてツッコまない方向で…(笑)