心を病んだ妹の無理心中によって突然に両親と家族を喪ったダニーは、トラウマに苦しむ日々を送り、心の傷が癒えないことから恋人のクリスチャンとも上手くいかずに惰性で付き合っているような状態だった。
そんなある日、彼女はクリスチャンがゼミの友人達と共に文化人留学の研究の一環として、友人の故郷であるスウェーデンの奥地の田舎町で90年に一度だけ行われる『夏至祭り(ミッドサマー)』を訪れる予定であることを知り、恋人との関係を維持するために旅行に同行する事となるが…
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最初に、今回のレビューはややネタバレ要素を含む(致命的なレベルではない)ため、ネタバレが絶対に嫌だと言う人は先には読まないようご注意ください。
劇場にて「ミッドサマー」を観てまいりました。
「ヘレディタリー 継承」で才覚を発揮したアリ・アスター監督による新作映画で、白夜に行われる『夏至祭り』を題材としており『白昼の陽光の下の明るくてほのぼのとした映像』なんだけど『物凄く不安をあおる不穏当な雰囲気の予告編』が印象的な本作ですが…
実際の中身の方も『予告編から受ける印象どおりの作品』といった感じなので、予告を観て気になっている人は観ておいて損はないと思います。
お話としては、『トラウマのせいで破局寸前のカップルが北欧の田舎町で90年に一度だけ行われる「夏至祭り(ミッドサマー)」に訪れるんだけど、その祭りは地元で古くから伝わる恐るべき原始宗教の祭典だった…』という感じのストーリー。
いわゆる原始宗教の恐怖を描いたカルト系の作品なのですが、陽光あふれる田舎町で『ほのぼのとした牧歌的な雰囲気の裏に漂う言いようのない不気味さ』を題材とした作品といえば、ホラーファンであれば佳作カルトホラーである「ウィッカーマン」を思い出す人も多いかもしれませんが…
ひと言で言ってしまうなら、まさに『「ウィッカーマン」(オリジナル版)に不気味さやエグさをマシマシにして、恋愛ドラマ的な要素をプラスしたような作品』と言う感じの内容の映画です。
この『陽光があふれて花が咲き乱れる田舎町の美しい映像をバックに漂い続ける不穏当な空気』が非常に良い味を出しており、牧歌的なテイストとのコントラストが不気味さを際立たせているのは良い感じ。
原始宗教の理不尽さや狂気っぷりも良い味を出しており、中盤からの展開は割とガチで怖くて、要所要所でかなりグロめのインパクトのあるシーンがあったりと、純粋にホラーとしてもなかなか楽しませてくれます。(個人的には「餅つき」のシーンが印象的でした。)
また主人公と恋人を巡る恋愛ドラマや人間ドラマ的な要素も、キャラをシッカリと掘り下げつつも『ロクでもないことにならなそうな予感』をプンプンと漂わせていて、恋愛要素がホラーとして蛇足的な内容になっていないのも良く作られている印象。
全体的に幻想的で怖くて非常に良く出来ているのですが、難点を挙げるとしたら『とにかく尺が長い』という事。
『緊張感の持続』を強いられるホラー映画なのに、全編で147分も尺があるので流石に観ていて疲れてしまいました。
恋愛ドラマ的な要素があるので、序盤に『主人公と恋人の人間関係』とかを描くのに尺を取るのは分かりますし、村にたどり着いて『夏至祭り』が始まるまでに牧歌的なテイストを描くのに尺を取るのも分かるのですが、肝心のお話が動き出してからの展開も、恐ろしくまったりしたスローテンポでひたすら長いんですよね。
映像もキレいだし要所要所で見せ場があるのでそこまで退屈する事はないのですが、流石に長すぎてちょっと冗長さを感じてしまうレベルだったので、特に後半はもう少しテンポ良くお話が進んでも良かった気がします。
ちなみにラストの展開は色々な解釈があり賛否両論分かれているようですが、個人的には「ヘレディタリー 継承」と同様に『救いようが無い内容なのに、何故か物凄い解放感やカタルシスがある』という素晴らしいオチだと思ったので、アリ・アスター監督には今後もこの路線を貫いて欲しいところですよ。
総評としましては、幻想的で牧歌的なテイストのただよう『ほのぼの不気味なカルトホラー映画』って感じの作品ですね。
「ヘレディタリー 継承」に比べると怖さやキツさはそこまで強くないので、予告編の『独特の不穏当な空気』を観て本編が気になっているようであれば、観ておいても損はない一本だと思います。