■■■「ポール・ヴァーホーヴェン/トリック」■■■
(55点/サスペンス:やや特殊な企画もの)
女癖の悪い大企業の経営者であるレムコは、妻と子供たちの主催で50歳の誕生パーティを開く事となるが、その夜に、数ヶ月前に別れて海外で暮らしていたはずの元愛人ナジャが彼の元を訪れ、彼の子供を妊娠している事を告げられる。
ナジャは実は会社の共同経営者の一人とグルで『会社を中国の企業に売却する事を了承すれば子供の事は穏便に済ます』という脅迫を受けた彼は、自分の生活を守るために渋々ながらも契約に応じようとするが…
ポール・ヴァーホーヴェン監督が一般からの公募シナリオを連作形式でまとめる事により作り上げたという、異色の試みによって作られたサスペンスドラマ。
ポール・ヴァーホーヴェン監督というと「ロボコップ」や「スターシップ・トルーパーズ」、サスペンスでも「氷の微笑」等が有名ですが、そういういつものヴァーホーヴェン系列とはかなり違った『企画系の実験作品』みたいな感じの映画ですね。
なんでも、もともとオランダのテレビ番組か映画会社かの企画で作られた作品のようで、制作会社が冒頭の5分間のシナリオのみを公開して残りのシナリオを一般公募し、投稿されたシナリオをリレー形式で繋ぎ合せてストーリーを作っていくという試みで製作された50分ドラマのようです。
全編で90分の作品なのですが、最初の40分程度は作品の監督が企画の意図を語ったり、キャストが作品に対する意気込みを語ったりするシーンのインタビューといった製作ドキュメンタリーのパートが入っており、お話的には残りの50分のドラマとの2部構成の作品という感じ。
企画の意図からしてドキュメンタリーパートを入れるのは良いとは思いますし、『なるほど、そういう形式で作られたんだ』と色々と考えながら観るのは面白いのですが、最初のドキュメンタリー部分は製作の意図や苦労話みたいな同じような事を延々と繰り返して語ってるだけなので、ぶっちゃけ15分ぐらいの尺でも良かったんじゃないかと…
本編の方は上記の『企画の意図』を踏まえて観ると、なかなか色んな分析が出来て面白い作品だと思います。
ストーリー的には『アメリカのサスペンスもののTVドラマ』的なノリで、恐ろしいぐらいに展開が早くて『ギュッっと濃縮されたストーリー』という感じの内容。
最初は登場人物多すぎ&展開早すぎで面食らいますが、中盤ぐらいまで観るとキチンと人間関係やら設定やらが理解できるような作りになってるのは上手いです。
ドキュメンタリー部分の説明を見る限りシナリオは8本ぐらいに分かれて投稿されたもののようですが、思ったよりもキレイにお話が繋がっており、何人もが書いたシナリオを上手く再構成した脚本家と監督の手腕は流石だなぁ…と素直に感心させられましたよ。
ただ連作形式の弊害という感じで、『登場人物の感情の切り替え早すぎ!!』みたいなシーンや『お前、前のシーンとキャラ変わってるだろ!!』みたいなシーンが若干見られたのは致し方ないところでしょう。(笑)
(複数の人間が脚本を書いてる海外のTVドラマとかでも、陥りがちなパターンですしね…)
また序盤から色々詰め込み過ぎなせいで『この話に50分でオチが付くのかよ?』と思いきや、一応は一つのエピソードに区切りが付いているものの『TVドラマの1話』的な思いっきり引っ張る感じのラストで、観終わったんだけど『まだまだ続きがある』みたいな釈然としない気持ちになるのは難点かも…
いっそ、この設定で連作形式のTVドラマとかを作れば面白そうですが、流石にそれは監督の負荷が高すぎるか?
総評としましては、作品としては『そこそこ楽しめる短編ドラマ』って感じではありますが、企画ものとしての背景と合わせて観ると『なかなか意欲的で面白い作品』だと思います。
ただ、いつものヴァーホーヴェン監督のトンガったノリを期待して観ると、本作にはそういう要素は全く無いのでちょっと肩透かしを食らっちゃうかも?
(『企画自体がトンガってる』って言えばそうなんですけど…)
普通のサスペンス映画だと思ってたので、序盤から延々と続く監督のインタビューが始まったのにはかなり面くらいましたが、まあ『たまには、こういうのもアリかな?』って感じの作品ではありましたよ。
凄く面白いという程ではありませんが、ちょっと変わった企画ものが好きな人や、ヴァーホーヴェン監督の独創性が好きで新たな試みに興味がある人ならば、試しにチェックしておいても良い作品かもしれません。