NIGHT_SHIFT (B級映画&ゲーム雑感 上井某BLOG)

上井某(家主)が観た「B級映画」(主にホラーとサスペンス)の感想と、たまにゲームとかアニメとかについてつらつらと語るブログです。

映画感想:「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」(60点/サスペンス:一部のファンの方には強くオススメ)

■■■「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」■■■
(60点/サスペンス:一部のファンの方には強くオススメ)


 近未来、人類は人工的な環境へ適応するように進化した結果、あらゆる感染症に感染せず、痛みや苦しみを感じない肉体を手に入れていた。


 そんな世界で、『加速進化症候群』という肉体に次々と新たな腫瘍や臓器が発生する体質を持つ芸術家のソール・テンサーは、自らの体に発生した新たな臓器にタトゥーを施し、それを元外科医であるパートナーのカプリースが摘出するという場面を『臓器摘出ショー』として公開。


 彼のショーは多くのファンの間で人気を博していたが、政府当局は『新たな臓器』が根付く事によって人類が別の生物へと進化する事を規制するため、彼を監視対象としていた。


 そんなある日、とある男性から『母親に殺された少年の遺体』を解剖する場面をショーとして公開して欲しいという奇妙な依頼を受けたソールは、その少年が『プラスチックを食べ物として消化できる』という特殊な消化器官を備えていた事を知るが…

 


 全ての人間が『痛み』を感じることが無くなり、外科手術や人体からの臓器摘出がショービジネスと化した未来世界で、とある『少年の遺体』を巡って起こる奇妙な犯罪の経緯を描いた、SF風味のサスペンススリラー映画。


 独特の世界観の映画を撮ることで有名なデヴィッド・クローネンバーグ監督の新作にあたる作品なのですが、本作は『いよいよ凡人には理解できないような世界まで到達してしまったな…』という印象が強く感じられるような内容の作品です。


 変人的な趣味の映画監督とかを良く『鬼才』と呼んだりしますが、この監督以上に『鬼才』という呼び方がシックリくる人を思いつかないレベルで、ビデオドローム」や「イグジステンズ」の珍妙でエロティックな世界観を更に一歩先に突き詰めたような『特殊な性癖の変態的映画』と言えば、この監督のファンの人にはどういうテイストの映画か分かりやすい感じかも?


 お話の設定として、『人類があらゆる「痛み」を感じなくなった世界で、外科手術がショービジネスとして公開されるようになっている』という設定の時点で十分にブッ飛んでいるのですが、外科手術がセックスの代替手段となっていたりするといった世界観も、いかにもクローネンバーグ監督らしいフェティッシュと変態性を感じさせてくれます。


 イグジステンズ」にも出てきた『矢鱈と有機的なメカ』によって構成された珍妙なデザインの安楽椅子やら解剖ベッドやらのセンスも、なかなかのキモさとエロティックさで、まさにクローネンバーグワールド全開という感じで、ずっと見てると『脳が変な物質で侵食されて変な世界から戻れなくなるんじゃないか』と心配になるレベルに仕上がっています。(でも、あの『矢鱈とカクカク動く椅子』は、どう考えても使いづらいだろ。(笑))


 ただ、ひたすらブッ飛んでいる設定という訳でも無く、人類の肉体的な変化に伴う『進化と変容』を描いた『有機的な肉々しいサイバーパンクSF』的なテイストとかもキチンと感じられて、いままでの監督の作品を観てきた人であれば、方向性やら世界観やらがシッカリと分かるようになっているのは悪くない印象。


 また荒唐無稽すぎるな世界観なのですが、いちおうはキチンと『未来の犯罪を描いたクライムサスペンス映画』として成立しており、普通にサスペンスとしても楽しめる内容になっているのは、単なる趣味の映画じゃなくてギリギリのところで娯楽作品として楽しめるように踏みとどまるバランス感覚の良さを感じさせてくれます。


 しかし、非常に個性的でファンにとっては楽しい作品なのですが、とにかく世界観が独特過ぎて『理解するのが大変すぎる』のは困りもの。


 特に序盤は、あまりに訳の分からない世界観やら時代背景を理解するために『お話についていくだけで精一杯』になってしまい、脳がストーリーの理解を拒みそうになってしまいましたよ…


 クローネンバーグ監督の今までの作品を色々と観ている人であれば、なんとなくテイストや方向性が理解しやすいかと思いますが、観たことがない人にとってはちょっとハードルの高い作品かもしれません。


 あと、『人間の身体を切り開いたり切り刻んだりするシーン』が矢鱈と出て来るので、そういうのが苦手な人には辛い作品かなぁ…

 


 総評としましては、独特過ぎる世界観と異様なテイスト満載の『キモち悪くてキモちいいB級サスペンススリラー映画』って感じですね。


 個人的には割と好きな作品ではあるのですが、良くも悪くもアクが強すぎる内容のため、あまり気軽にオススメできる作品ではないのが厳しいところ。


 ビデオドローム」、「戦慄の絆」、「イグジステンズ辺りの作品が好きだった人には、そういった作品群の総決算的な内容の映画だと言えるので、割とオススメ出来るかなぁ?


 逆にそういったタイトルを聞いたことも無いような人には、世界観がぶっ飛び過ぎててハードルが高すぎる作品だと思うので、クローネンバーグ監督の映画でももうちょっとマイルドな作品を履修してからの方が良いかもしれませんよ。