■■■「乱歩地獄」■■■
(サスペンス/55点)
日本を代表する探偵小説の創始者であり、同時に猟奇的な作品も数多くを手がけた、江戸川乱歩の短編のうち『狂気の愛』を描いた4編を映画化したオムニバス形式のサスペンス映画です。
今回映画化されたのは、「火星の運河」と「鏡地獄」と「芋虫」と「蟲」の4本。
…なのですが、額面どおりに原作の短編小説の忠実な映画化と言う訳ではなく、かなりアレンジが加えられているようで、最初は結構戸惑いました。
とまれ、各作品に対して簡単に感想なんかを…
●「火星の運河」
私はこの作品は原作を読んだ事が無いのですが、原作を知ってようが知ってまいが理屈ぬきでインパクト抜群の作品です。
まさにイメージだけで観るような感じの作品で、10分程度の短編ながらも4本の中である意味で最も衝撃的。
これを一本目に持ってきたのは正解かも?
●「鏡地獄」
鏡の魅力に取り憑かれた一人の青年の狂気の愛を描いた作品。
ちなみに本作は「鏡地獄」と言いながらも、もう一本何か別の原作と話が混ざっており、ストーリーには結構なアレンジが施されています。
鏡を多用した映像演出の美しさと、SMシーンの激しいエロスの対比が衝撃的。
4作品の中ではストーリーも演出も非常に明快で分かり易く、個人的には最も面白かったです。
でも、浅野忠信は好きな俳優ではあるものの、明智小五郎役は流石に無理があるだろう…とも思いました。
●「芋虫」
戦争によって負傷したために、両手両足を失い両耳と喉を潰されて、視力と生殖能力以外の殆ど全ての感覚を失い『芋虫』のようになった旦那を介護しつづける妻の狂気の愛を描いた作品。
コレも「芋虫」以外に何か別の作品の要素(コレは「一寸法師」?)が混ざっており、原作のストーリーに対して物凄いアレンジが施されています。
映像的には、最もグロ描写が強くて観る人を選びそうな作品です。
原作では『介護に疲れた奥さんが徐々に狂気に駆られて行く』といった感じの展開が哀しげで良かったのですが、映画版は奥さんが最初から狂気に駆られちゃってるので、なんかニュアンスが違ってて、ちょっとしっくり来ませんでした。
原作は非常に好きな作品なので、ちょっと残念。
●「蟲」
極度の潔癖症で厭人病者の青年が一人の女優に思いを寄せるあまりに殺害してしまい、その死体となった彼女を愛し続けるという狂気の愛を描いた作品。
これは比較的原作に近いものの、これまたなんか別の話の要素がイロイロと混ざっているようです。
サイケデリックな色合いや映像の面白さは、流石はマンガ家のカネコアツシが監督をしてるだけの事はあります。
ただ、ストーリーが妙に難解で、130分超の長尺映画の4本目にコレを見せられるには少々辛い。
ハッキリ言って、途中で少々ダレてしまいました…。
浅野忠信が本作内で一人二役をやってるのですが、意味も無く話が分かり辛くなるだけで演出的な意図が汲み取れなかったのは私だけ?
で、4本通しての評価ですが…
今回映画化された作品は、4編とも原作からして『狂気の愛』をテーマとした作品なのですが、そういう意味では4編ともに見事なまでの狂気っぷりで、スタイリッシュで前衛的な映像の連発は視聴者を確実に『美しい狂気の世界』へと誘ってくれるだけのパワーがある映画だとは思います。
ただ、どの作品も過剰なまでにエロとグロの描写を過激に表現しており、特に「芋虫」や「蟲」は無闇に難解になってしまい、原作とニュアンスが違ってしまって居るかも?と感じる部分もちらほら…
というか、以前から乱歩の猟奇小説の映画化を観るたびに感じていたのですが、乱歩の小説って確かに設定は猟奇的な物が多いのですが、お話の方はテーマもストーリーも極めて明快で読み易いというのも魅力の一つなんですよね。
でも乱歩の映画って映像化されると、やたらと芸術映画的で難解な内容に仕上げられてしまう事が多いのは何故なんでしょう?
個人的には『猟奇』で『耽美』、そして『明快』というのが乱歩の持ち味だと思うのですが…
それはさておき総評としましては、とにかくどの作品も狂気映画としてはインパクト抜群の作品だと思います。
ただ、余りにもインパクトや下品な趣味が強いので、正直言って観る人間を選ぶ映画だとは言えるでしょう。
とまれ、日本映画の最先鋭と言えるような芸術的な映像を観たい人は、是非とも一見の価値はある作品です。
ただ個人的には、映像的には確かに凄いなぁ…と思いつつも、原作とのニュアンスや設定の微妙な違いが馴染めなくて、どうも最後まで落ち着かない気分になる映画でしたよ…