■■■「ゾンビの帰郷/ジョー・ダンテ」<マスターズ・オブ・ホラー>■■■
(60点/ゾンビ映画)
大統領選挙を3週間後に控えたアメリカ合衆国。
タカ派の現職大統領の政治顧問であるデイヴィッド・マーチは、現在行われている戦争に関するTVのトークライブに出演していた。
番組の中で、戦死者の遺族を前に『大統領の戦争責任』に付いて問われた彼は…
「もし一つ願いがかなうのなら、ご子息に戻ってきて欲しい。彼らなら言えるからです。意義ある戦争だったと……」
というコメントを行うが…
コレを観た大統領はこの発言に痛く感動し、このセリフを自らの演説の中で引用する発言を行い民衆からの強い支持を得る。
しかし大統領の発言を受けてか否か、その数日後から戦争による死者達が次々と本当に蘇り、『ゾンビとなって故郷へと帰って来る』という怪現象が発生。
しかも彼らはゾンビ故に『不死身』ではあるものの、極めて大人しく決して人間を襲う訳でも無く、淡々と『次期大統領選挙に投票を行うと再び死体へと戻る』という奇妙な行動をとり続けるのだった…
これを政治的プロパガンダに利用できると思った大統領陣営は、蘇ってきたゾンビ達に選挙権を与える事とするが、しかしその後日にゾンビ達が自分の意思を発言。
彼らは『嘘の戦争のために、女や子供が殺された。』とし、自分達は戦争を支持する現職大統領へは決して投票しない事を公言し、その影響を受けて大統領の支持率は徐々に旗色の悪い物となって行くのだった…
世界的に有名なホラー監督が競演する「マスターズ・オブ・ホラー」シリーズよりジョー・ダンテ監督による風刺たっぷりのゾンビ映画。
ジョー・ダンテというと、ホラーよりも「グレムリン」や「インナースペース」といったメジャーなヒット作を撮った監督として有名ですが、マイナーな頃にホラー作品の「ピラニア」や「ハウリング」を撮った監督と言う事はホラーファンの間では割と有名な事実でしょう。
本作はゾンビ映画としながらも、『基本的には人を襲わない』という非常におとなしいゾンビが登場するという異色作品。
まあ実際にはゾンビ映画と言いながらも、現行のブッシュ政権における『戦争の意義』を痛烈に批判した風刺映画という側面が強い作品です。
「ベトナム戦争」や「湾岸戦争」という、ある意味アメリカの『威信』を保つ為だけに行われた戦争で命を落とした兵士達が、自分を死なせる事となった戦争に反対する為だけに『かりそめの生』を得て選挙に投票する…という光景は、なんともシュールでブラックユーモアに溢れ、笑えると同時にどこか物悲しさを感じさせる物があります。
そういう意味で、『反戦映画』っぽい側面を持った映画とも言えるのですが、ただ単なる『説教臭い映画』になってしまわずに、ホラー映画のテイストをキチンと保ちつつもニヤリと笑わせる部分も持ったエンターテイメント作品として成立させている辺りは、流石と言った所でしょう。
ラストのオチもなかなかに強烈で、良い意味でインパクト抜群です。
ただ、個人的には相当面白いと感じた作品なのですが、純粋にホラーとして『怖い話』を期待して借りた人には微妙な作品かも?
笑えるシーンは多いものの、ホラーとして怖いようなシーンは殆ど無いですしね…
総評としましては、ホラーとしては変化球ながらも『ブラックユーモア』や『風刺的なノリ』が好きな人ならば、結構楽しめる快作だと思います。
ただ政治批判的なノリが強いので、そういった作品が好きじゃ無い人にとっては、少々観る人を選ぶ作品かも?
ちなみに本作は、先述の「ディアウーマン/ジョン・ランディス」と同じ巻に収録されているのですが…
もし、この巻をシリーズの最初に借りた人が居たら『「マスター・オブ・ホラー」ってこういう変な作品ばっかりなんだ?』とか誤解を招きそうですが、他の作品はキチンと怖い内容の物が多いですのでご安心を…