■■■「THE WAVE ウェイブ」■■■
(65点/サスペンス:オススメ)
ドイツの高校で教鞭を執る政治学の教師のライナーは、『独裁制(ファシズム)』の授業の一環として『ナチスドイツ式独裁』を模した実習を行う。
しかし、1日限りだったはずの『独裁制』の実習が学生たちの間で好評を博した事から、ライナーは1週間の講義の期間を同様の実習形式で行う事となるが、現実の社会に対して不満を持った学生たちの間で『独裁制』の考えは瞬く間に受け入れられていく。
やがて、『独裁制』を受け入れた学生たちは自らを「ウェイブ」と名乗り、学校全体を巻き込んだ制御不能の集団へと変化していくのだった…
『独裁制』の思考実験が引き起こした制御不能のパニックを描いた、シチュエーションサスペンス映画。
なんでも、実際にアメリカの高校で起こった事件をベースとしたサスペンスらしいのですが、いやはやなかなかどうしてコレが面白い作品でした。
現実的に考えると『いまどき「独裁制(ファシズム)」とか有り得ないだろ?』と思うものなんですが、学生たちが『独裁性』へと傾倒していく過程のシチュエーションの描き方が恐ろしい程にリアリティがあって、どの程度まで実話をベースとしているのか分かりませんがお話の構成が非常に上手いです。
登場人物が(主人公の教師も含めて)思想に洗脳されていく過程や、思想を持った集団が『制御不能の状態』へと陥っていく過程が非常に丁寧に描かれており、実際の『洗脳』とか『集団ヒステリー』とかって、こういう感じで起こるんだろうな…っていうのがリアルに実感できてしまい非常に恐ろしかったです。
実際に、現在の日本でも政治への不信や就職難や不景気やらで『社会への不満を持ってる人間』は多いでしょうし、条件さえ揃えばこういう事件って起こってしまうんじゃないだろうか…
また、ストーリーのプロットだけでなく登場人物のキャラクターの描き方も秀逸で、非常に多くの登場人物が登場するにも関わらず、主要なキャラの個性がキチンと描き分けられており、それぞれのキャラを効果的にストーリーに絡ませている構成はかなり見事。
TVシリーズならともかく100分強の作品で、これだけシッカリと多人数のキャラを描いているのは、無駄の無いプロットと構成力のたまものだなぁ…と真剣に感心しましたよ。
お話そのもののシチュエーションもサスペンスとしては他にあまり無いタイプですし、ストーリーも先が読めない展開でなかなか面白い作品なのですが…
敢えて難を挙げるなら、舞台が高校なので『それほど大事にはならないだろう』ってのがある程度は予想できる事から、派手さや緊張感がそこまで無いってのは難点でしょうか?
シチュエーションサスペンスなんだから『もっとピリピリするような緊張感が欲しい』という人には、若干もの足りない部分があるかもしれません。
逆に、その辺がもう少し派手っぽく作りこまれていれば、ハリウッドメジャー級のタイトルとしても十分に通用するレベルの作品になったと思うので、少し勿体無いところかも?
総評としましては、シチュエーションサスペンスとしても演出やプロットが非常に上手く、切り口もなかなか珍しいタイプで面白い作品ですので、普通に『サスペンス映画が好きな人であれば観ておいて損は無い作品』だと思います。
いわゆるミニシアター系の作品ですが「サンダンス映画祭」とかその手の映画祭で絶賛された作品だそうですので、『その手の映画祭で取り上げられるような映画』に興味がある人なら間違いなく楽しめる一本でしょう。
個人的には、今年観たサスペンス映画のなかでは一番楽しめた作品でしたので、『ちょっと毛色の違ったサスペンス』が好きな人ならばかなりオススメですよ。