■■■「リトル・ジョー」■■■
(55点/サスペンス)
植物の品種改良を行うバイオ企業の研究室に務めるシングルマザーのアリスは、遺伝子操作によって『人間を幸せにする香りを出す』という新種の植物の開発に成功する。
小学生の息子であるジョーの名前にちなんで、植物に『リトル・ジョー』と名付けたアリスは、息子に見せるために密かに『リトル・ジョー』を自宅に持ち帰るが、その花粉を吸っていらい息子のジョーが異常なまでに物分かりが良く、『リトル・ジョー』以外の物事に対して無関心な態度を取るという、奇妙な反応を示すようになったことに困惑。
他の『リトル・ジョー』の花粉を吸った人間たちも、表向きは平常に見えつつも同じような変化が観られた事から、植物の遺伝子操作に用いたウイルスが人間の脳に何らかの悪影響を及ぼしているのでは無いかと疑いを抱くようになっていき…
遺伝子操作によって作られた『人間を幸せにする植物』が、その匂いを嗅いだ人を密かに支配下に置いていく…という、オーストリア製の侵略SF風味のサスペンススリラー映画。
遺伝子操作で作られた『人間を幸せにする植物』というのが題材になっており、やや特殊なテイストを感じさせる設定となっていますが、いわゆる「ボディスナッチャー」とかから連綿と受け継がれる『侵略ものSF』の一形態的なお話ですね。
というか、匂いを嗅いだ人間の『脳内の幸福物質』を分泌させて『人間を幸せにする植物』って、それっていわゆる『麻薬』の事では?
…とかって気がする訳で、侵略もの以前に色々とヤバイ設定という印象。(笑)
お話的には『植物の花粉を吸いこんだ人間』が植物の持つウイルスに感染して、『植物の世話と拡散を最優先に考える無感情なゾンビ』のようになってしまうといった感じの設定で、一見して変化は分からないけど『植物に支配された人間』が徐々に増えていく…みたいな流れの展開。
『果たして誰が既に植物に支配されているのか?』みたいなサスペンス的な流れでお話が進んでいくのですが、『植物に支配された人間』は基本的にはそれこそ『植物のように穏やか』で淡々としているので、あまり派手な展開とかはありません。
逆に淡々と侵略が進行していく不気味さは良く出ており、『静かな怖さ』のようなものを感じられる作品という印象ですね。
またオーストラリア製の欧州作品だけあって、全体的に映像や演出のセンスが非常に独特。
どこか毒々しくて不気味な「リトル・ジョー」のデザインや、サイケデリックで妙にカラフルなライティング、日本の神楽を思わせるような妙に荘厳なBGM等、独特のテイストを感じさせる演出が多くて雰囲気映画としては良い感じ。
洗脳されている人間が淡々とし過ぎていて、息子を救うために感情的になって『謎を追っている筈の主人公』の方が逆に追い詰められていくみたいな展開は、なかなか怖くて悪くない印象。
ただ先述のとおり、原則的に地味な内容が中心で殆ど派手な展開とかは無く、非常に淡々とお話が進んでいくので全体的にスローテンポで冗長さを感じる部分が多いのは残念なところ。
また『匂いが人間の脳内物質に作用して幸福感をもたらす』というSF的な題材としての面白いアイデアがいま一つ活かしきれていない感も受けたので、いっそ『そもそも幸福とはなにか』みたいな切り口のネタがあっても良かったかも?
(ただ、そこまでやると詰め込み過ぎでお話の主題がブレてしまうか?)
総評としましては、独特なテイストが面白い『雰囲気映画風味の侵略SF系サスペンス映画』って感じの作品ですね。
欧州作品らしい雰囲気映画的なテイストやら、『静かな破滅』的なジャンルのSFが好きな人であれば、まあまあ楽しめる一本ではないかと…
強くオススメするほどではないですが全体的なテイストは悪くない映画なので、気になるようであればチェックしてみても良いかもしれませんよ。